この記事では、みずほFGによる石炭火力発電への融資停止、および三菱UFJ FG、三井住友FGの同融資抑制における対応についての考察と、示唆を抽出している。
メガバンクも「漸く」石炭火力融資停止・抑制に本腰を入れる構えだ。 メガバンク3行で同融資金額の世界トップ3を占め、批判を浴びている現状を鑑みると、グローバルの潮流に沿ったこの姿勢の変遷は必然とも言える。
変遷の中で、一企業市民としてグローバルレベルでの「脱炭素社会」への協力要請、株主である投資家のESG投資への傾倒を受け、経営層による収益性とのトレードオフを踏まえた決断の末、今回の判断に至ったのは想像に難くない。
然しながら、本件が示すように「矢面に立ってから動く」という邦銀の腰の重さは変化の早い現代においては致命傷を負いかねない悪癖だ。次世代の競争で勝ち残るために、グローバル金融機関の雄に負けない先進性を備えることを、切に願う。
みずほFGが石炭火力融資停止を公表、三菱UFJ FG・三井住友FGは「原則控える」
みずほフィナンシャルグループ(FG)は温暖化ガスの排出量が多い石炭火力発電所向けの新規融資をやめる。約3千億円の残高を段階的に減らし、2050年度までにゼロとする。三井住友FGも新たな融資を原則として控える方針を近く打ち出す。気候変動対策では欧米の金融機関が先行しており、邦銀も取り組みを急ぐ。
日本経済新聞
すでに三菱UFJフィナンシャル・グループが新規の投融資を原則として行わない方針を示しており、3メガバンクが足並みをそろえる。みずほFGはそのなかでも新規融資の停止や残高ゼロの期限を明確に打ち出す。
みずほFGが「漸く」石炭火力発電への新規融資を停止させる。三菱UFJ FG、三井住友FGを含めた3メガバンクは、2018年から同融資案件を絞ると公言してきたが、停止にまで踏み込んだのは初めて。グローバルスタンダードと比較すると「遅すぎる」と言わざるを得ないが、脱炭素社会を目指すグローバルの潮流に追随する姿勢は喜ばしい限りだ。
みずほFG、三菱UFJ FG、三井住友FGの石炭火力発電への融資額は、ドイツ環境NGOの調査によれば世界の並み居る金融コングロマリットの中でトップであり、2017-2019年の融資額は何と1-3位を独占。3行での融資額は3年間で4.2兆円に至り、グローバルでシェア40%を占有。
「なぜこのご時世に、気候変動を助長する石炭火力発電へ多額の融資をするのか?」と疑義を呈する人も多いだろうが、石炭火力発電への融資は、日銀の金融緩和政策による低金利環境下で収益追求のためのリスクテイクという位置付けだったのだ。
石炭火力発電への融資は、一般的に高い収益性を誇る。期間数十年に及ぶ長期のプロジェクトファイナンスがポピュラーな形態であり、新興国案件ともなればカントリーリスクを踏まえて金利が高まる。
その一方で、海外の石炭火力発電案件は、エネルギーに纏わる国策として国家がバックに聳えているケースも多々あり、時には政府保証が差入れされて融資の安全性が盤石化する。そうなると銀行にとっては垂涎の案件として仕立てられる。
グローバルレベルでの気候変動対応の潮流に逆行しながらも、斯様な石炭火力発電融資の魅力ゆえ、国内の貸出利鞘が圧迫される状況下、収益性追求を優先し融資を継続していた。
【外部リンク】
ドイツ環境NGO:日本の金融機関・投資家が石炭投融資リストのトップを独占
気象庁:気候変動
みずほFG・三菱UFJ FG・三井住友FGが石炭火力融資の停止・抑制に至った要因
国内の3メガバンクが石炭火力発電所向けの新規融資を停止するのは、気候変動への取り組みを重視する投資家や環境団体の視線が厳しくなっているためだ。欧米の金融機関は新規の投融資を実施しない方策と具体的な手立てを打ち出しており、邦銀の姿勢が注目を集めていた。
日本経済新聞
欧米では投資家が企業に温暖化への対応を迫るなど圧力を強めている。外国人株主が3割前後にのぼる邦銀もこうした流れと無縁でない。国際会議では、邦銀が環境団体からの抗議で矢面に立つ場面も少なくない。
投融資先として収益性が見込めるオプションを喪失する、というトレードオフと引き換えに、メガバンクが挙って石炭火力融資の停止に踏み切った要因は大きく3つ。
石炭火力融資停止・抑制の要因①:グローバルレベルでの「脱炭素社会構築」への要請
一部先述の通り、グローバルの大きな潮流として気候変動を意識した「脱炭素社会」へのシフトが叫ばれていることは周知の事実である。その中で、みずほFG、三菱UFJ FG、三井住友FGという日本に冠たる金融コングロマリットも、グローバル社会を構成する一員としての責任を果たす必要性が高まっている。
年を経る毎に、環境保護団体や企業による環境配慮への姿勢を糾弾するモメンタムが強まっており、二酸化炭素を大量に排出する石炭火力発電への融資も「地球温暖化を手助けしている」と批判されてきた。
【外部リンク】朝日新聞: 石炭火力発電の廃止訴え行進 日本批判の横断幕も
石炭火力融資停止・抑制の要因②:投資家によるESG投資重視へのマインド・シフト
グローバルレベルで脱炭素社会への変化を目指す潮流の中で、世界中の投資家のマインドが大きく変遷していることも大きな要因である。中長期的なサステイナビリティの視点以て、所謂ESG投資を重視する投資家、ひいてはESG関連銘柄への流入額は勢いを増大させている。
国際組織「世界持続可能投資連合」(GSIA)の集計に依れば、2018年の世界のESG投資額は約3,400兆円と2016年から34%増加している。近い将来において、ESGを重視しない企業へは今後投資しないという機関投資家が登場する蓋然性さえ存在する。
「石炭火力発電への融資を未だに実行し、気候変動の片棒を担いでいる邦銀へは、投資しない」となってしまえば、株主価値が大きく喫損する可能性があり、斯かるリスクを回避するため、石炭火力発電への融資を停止する流れが生まれている。
【外部リンク】時事ドットコム:急拡大するESG投資
石炭火力融資停止・抑制の要因③:経営層のトレードオフを踏まえた決断
グローバルでの潮流や投資家のマインド・シフトを踏まえ、各メガバンクのトップが経営判断として石炭融資の停止・抑制に踏み切っている。その決断には短期的な収益性とのトレードオフが存在しており、中長期的な株主価値の毀損を防止する判断に他ならない。
まとめ:みずほFG・三菱UFJ FG・三井住友FGの石炭火力融資停止・抑制から考える示唆
先述した3つの要因を総合すると「外部環境の変化を踏まえて経営層がトレードオフを踏まえて経営判断を下した」という当然の帰結が得られる訳だが、この事象からどのような示唆が得られるのか。
石炭火力融資の停止・抑制から考える示唆:グローバルの潮流に乗り遅れる"悪癖"を正す必要がある、と言えるだろう。伝統的な日系大企業の代表例とも言えるメガバンクだが、やはり腰の重さが際立つ。
石炭火力発電への融資の例示に見られるような「矢面に立って批判されてから動く」「課題が浮き彫りになってから動く」では、変化の早いこの時代に於いて、グローバルでの競争で勝ち抜き、飛躍的に成長することは難しい。
邦銀はただでさえ、金融界隈においてデジタルテクノロジーや株主価値の向上など、多岐に亘る領域で「グローバル・トッププレイヤーと比較して5年遅れている」と揶揄されているのが現状。
今後の厳しい競争環境で生き残るためには、周囲の動向を伺い横並びに甘んじるのでは無く、機先を制し、むしろグローバル金融機関に先駆けて融資を停止するくらいの気構えでいて欲しい。